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-べん毛タンパク質輸送の新知見は細菌感染症への新たな対抗策に-

細菌の“毒針”は「膜電位」の上昇で動き出す
-べん毛タンパク質輸送の新知見は細菌感染症への新たな対抗策に-

トピックス プレス情報 掲載日:2021年05月28日
最終更新日:2021年06月01日

細菌の“毒針”は「膜電位」の上昇で動き出す
― べん毛タンパク質輸送の新知見は細菌感染症への新たな対抗策に ―

ポイント

  • 細菌のべん毛基部にあるべん毛タンパク質輸送チャネル※1(タンパク質複合体)の輸送ゲートが開閉するしくみを発見
  • 膜電位※2変化を感知して開閉し、ある閾値を超えると輸送チャネルタンパク質FlhA※3が活性化されるというもの(イオンチャネル※4以外では世界初)
  • 上記解明により、細菌感染症に関わるIII型分泌装置※5を直接ターゲットとした細菌感染症の創薬スクリーニング※6への応用に期待

大阪大学大学院生命機能研究科プロトニックナノマシン研究グループの南野徹准教授、同研究科日本電子YOKOGUSHI協働研究所の木下実紀特任助教(常勤)、難波啓一特任教授、九州工業大学大学院情報工学研究院の森本雄祐准教授の共同研究グループは、膜電位依存的にべん毛タンパク質輸送チャネルが活性化されるしくみがあることを世界で初めて明らかにしました。


細胞膜内外のイオンの分布差により細胞の外側はプラスに、内側はマイナスに帯電しています。このような細胞膜を隔てた電位差は「膜電位」と呼ばれています。神経細胞には膜電位の変化に依存して活性化されるイオンチャネルが多数存在し、膜電位がある閾値を超えるとイオンチャネルが活性化され、大量のイオンがチャネル内を透過して電気シグナルが発生し、神経に沿ってすばやく伝達して脳の情報処理や筋収縮による身体の動きを制御します。高等生物にはとても重要なしくみです。共同研究グループはそれと同様のしくみが細菌でも使われていることを発見しました。

細菌性食中毒の原因菌であるサルモネラ菌はべん毛と呼ばれる運動器官を使って人体の腸管上皮細胞まで移動し感染します。べん毛は回転モーターとして働く基部体、ユニバーサルジョイントのフック、らせん型プロペラである繊維の、3つの部分構造で構成されます(図1)。べん毛基部には独自のタンパク質輸送装置※7があり、菌体の外に長く伸びるべん毛を構築するために細胞内で合成されたべん毛構成タンパク質を認識し細胞外へ輸送します。この輸送装置は5種類の膜タンパク質※8からなる輸送チャネル複合体と3種類の細胞質性タンパク質からなる ATP加水分解酵素複合体から構成されます(図2)。これまでに、この輸送装置が膜電位を動力源に利用してべん毛構成タンパク質を細胞外へ送り出すことは知られていました。しかし、輸送チャネル複合体の立体構造が不明であるため、膜電位がどのように使われるのかは不明でした。



今回、共同研究グループは、輸送チャネル複合体だけでも効率よくべん毛を作れる変異株を用い、1)この輸送チャネル複合体が膜電位依存的に活性化されること、2)輸送エンジン膜タンパク質FlhAとATP加水分解酵素複合体の一部を構成する FliJとの相互作用が膜電位の上昇に伴って安定化されること、3)FlhA-FliJ相互作用によって輸送ゲートが開くと水素イオンの内向きの流れと共役してべん毛構成タンパク質が細胞外方向に輸送されることを発見しました。本研究成果は、イオンチャネル以外では世界で初めて、膜電位変化を感知して動作するタンパク質のしくみを発見したものです。輸送ゲートを開閉するしくみが輸送チャネル複合体自体に装備されていること明らかにするとともに、膜電位が利用されるべん毛タンパク質輸送過程に関与するタンパク質を同定しました。これらの発見により、べん毛タンパク質輸送装置と機能的にも構造的にも同じしくみを持つ病原細菌のIII型分泌装置を、直接ターゲットにした感染症治療のための創薬スクリーニングが可能になると期待されます。


本研究成果は、米国科学誌「米国アカデミー紀要(Proceeding of the National Academy of Sciences of the United States of America)」に、5月27日(木)午前4時(日本時間)に公開されます。


■ 研究の背景

急性胃腸炎を引き起こす病原細菌であるサルモネラ菌はIII型分泌装置と呼ばれる、注射器にそっくりな「毒針」を使って腸管上皮細胞から感染します(図3)。サルモネラ菌は毒針を使って多種多様な病原因子を腸管上皮細胞に直接注入して腸管上皮細胞の細胞機能をハイジャックします。毒針の根本に存在するタンパク質分泌装置は機能的にも構造的にもべん毛を作るために必要なタンパク質輸送装置とそっくりです。共同研究グループはIII型分泌装置のモデルとしてべん毛タンパク質輸送装置の研究を進めてきました。これまでに、このタンパク質輸送装置の主要な動力源が細胞膜内外に形成される膜電位であることを世界で初めて発見しましたが、輸送装置がどのように膜電位を利用してべん毛構成タンパク質を細胞外へ送り出すのかは不明なままでした。



■ 研究の内容

共同研究グループは、輸送チャネル複合体だけでもべん毛を効率よく形成できる変異株を用いてべん毛タンパク質輸送における膜電位の役割を解析しました。その結果、
1)べん毛タンパク質輸送チャネルは膜電位がある閾値を超えると自律的に活性化すること、
2)膜電位の上昇に伴ってFliJとFlhAの相互作用が安定化すること、
3)FliJが膜電位依存的にFlhAのプロトンチャネルを活性化するとともに、
タンパク質輸送チャネルのゲートも開閉することを発見しました。

本研究は長い間謎であったべん毛タンパク質輸送における膜電位の使われ方を明らかにするとともに、世界で初めて、イオンチャネル以外にも膜電位依存的に動作するタンパク質のしくみとして、タンパク質輸送ゲートを開閉できるしくみを発見しました。今後は、本研究成果をもとに、この輸送チャネルに装備されている膜電位センサーの実体を明らかにするとともに、輸送チャネル複合体のエネルギー共役の仕組みの研究発展が期待されます。

■ 本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

サルモネラ感染症の患者数は世界中で毎年7,500万人にものぼり、年間死者数は27,000人にも達します。特に、幼少児や高齢者の場合は微量なサルモネラ菌の摂取量でもサルモネラ感染症が発症し重篤化します。サルモネラ感染症は昔から世界的な社会問題の一つで、感染機構の解明ならびに克服のための探索研究が世界各国で続けられています。サルモネラ菌が感染する際に中心的な役割を果たすのがべん毛タンパク質輸送チャネルと機能的にも構造的にもそっくりなIII型分泌装置で、この装置が多種多様な病原性因子を腸管上皮細胞内へ直接注入して感染を起こします。抗菌剤は細菌感染症対策の主流ですが、多剤耐性菌の出現により治療困難な感染症が増えています。数十年後には細菌感染症による死者数が癌による死者数を超えると予想されており、新たな着眼点からの感染症対策が急務となっています。III型分泌装置は細菌特有のもので、しかも病原細菌の生存に必須でないことから、III型分泌装置の働きだけを不活化できる薬剤が見つかれば、病原細菌の病原性のみを破壊することが可能となります。したがって、本研究成果によりIII型分泌装置の構成タンパク質であるFlhAホモログを直接ターゲットにした創薬スクリーニングが可能となり、社会的な重要課題である新興細菌感染症を制御するための新技術開発に貢献すると期待されます。

■ 論文の詳細情報

タイトル: Membrane voltage-dependent activation mechanism of the bacterial flagellar protein export apparatus
著者名: Tohru Minamino, Yusuke V. Morimoto, Miki Kinoshita and Keiichi Namba


※1) べん毛タンパク質輸送チャネル
細菌の運動器官であるべん毛を細胞表層に作るため、べん毛を構成する部品を細胞内から細胞外へと送り出す装置。
※2) 膜電位
細胞膜を隔てて生じる電位差。細胞膜内外のイオンの分布差により、細胞の外側はプラスに、内側はマイナスに帯電している。
※3) 輸送チャネルタンパク質FlhA
べん毛輸送チャネルを構成するタンパク質の一つで、水素イオンやナトリウムイオンを通すイオンチャネルとして機能する。
※4) イオンチャネル
細胞の生体膜を貫通する膜タンパク質で、内部にイオンの流路を持ち、それを開閉してイオンを透過させる。細胞内外のイオンの濃度分布を変化させることで膜電位を大きく変化させたり維持したりする。
※5) III型分泌装置
病原性細菌が持つタンパク質分泌装置の一種で、エフェクターと呼ばれる細菌感染に必要な病原性因子タンパク質群を宿主の細胞内に直接注入する、注射器の形をした分泌装置。細菌感染に重要な役割を果たす。
※6) 創薬スクリーニング
数多くの低分子化合物の中から疾患の原因となる標的タンパク質に作用する候補分子を探索すること。
※7) タンパク質輸送装置
生体膜越しにタンパク質を細胞内から細胞外へ送り出す装置。
※8) 膜タンパク質
細胞膜などのリン脂質2重層で形成される膜に存在するタンパク質の一般名称。細胞膜を隔てて各種イオンを流すイオンチャネルや栄養源などの物質を運ぶトランスポーターなどが知られている。


プレスリリース本文はこちら


【本件に関するお問い合わせ先】
 大阪大学 大学院生命機能研究科
 准教授 南野 徹(みなみの とおる)
 TEL:06-6879-4625
 FAX: 06-6879-4652
 E-mail: tohru*fbs.osaka-u.ac.jp

 大阪大学 大学院生命機能研究科
 特任教授 難波 啓一(なんば けいいち)
 TEL:06-6879-4625
 FAX: 06-6879-4652
 E-mail: keiichi*fbs.osaka-u.ac.jp

 九州工業大学 大学院情報工学研究院
 准教授 森本 雄祐(もりもと ゆうすけ)
 TEL:0948-29-7833
 E-mail:yvm001*phys.kyutech.ac.jp

 (メールは*を@に変えてお送りください)

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